※この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については必ず医師・薬剤師にご相談ください。

スギが終わったのに、まだ止まらない——「多重感作」という落とし穴

「スギ花粉の時期は終わったはずなのに、鼻水もくしゃみも一向に治まらない」——筆者もこれに何年も悩んでいました。アレルギー検査をしたら、スギだけでなくヒノキとイネ科にも反応していたと判明。いわゆる「多重感作」だったのです。

原因は、複数の花粉に同時に反応する「多重感作」かもしれません。 日本人の花粉症患者の約半数が、スギ以外にもヒノキやイネ科など2種類以上の花粉に感作しているとされています。

多重感作に気づかないまま「スギ花粉の時期だけ」対策していると、春が終わっても症状が続き、結果的に1年の大半を花粉症に悩まされることになりかねません。

この記事でわかること:

  • 多重感作の仕組みと、自分が該当するかを知る方法
  • 花粉カレンダーで把握する「年間の要注意スケジュール」
  • 複数花粉に対応する通年型の予防・治療戦略

多重感作とは?——複数の花粉に免疫が反応する状態

多重感作とは、体の免疫系が2種類以上の花粉をそれぞれ「異物」と認識し、個別にIgE抗体を作っている状態です。

花粉症は、特定の花粉タンパク質に対してIgE抗体が産生されることで発症します。スギ花粉だけに反応する「単一感作」なら症状は2〜4月に限られることが多いものの、ヒノキやイネ科にも感作されていると、4月以降も症状が続きます。ブタクサにまで反応していれば、秋まで途切れません。

厄介なのは、感作は年々増える可能性があるという点。もともとスギだけに反応していた人が、花粉への曝露を繰り返すうちにヒノキやイネ科にも感作される——そんなケースは珍しくないとされています。

「毎年、花粉症の時期が長くなっている気がする」と感じたら、多重感作を疑う価値があります。


交差反応の仕組み——なぜスギに反応する人はヒノキにも反応しやすいのか

スギ花粉症の方の約7割がヒノキ花粉にも反応するといわれています。これは「交差反応」によるもの。

交差反応とは、異なる花粉のタンパク質構造が似ているために、1つの花粉に対するIgE抗体が別の花粉にも反応してしまう現象です。スギとヒノキはどちらもヒノキ科の植物であり、主要アレルゲンの構造が類似しているため、交差反応が起きやすいとされています。

交差反応が起きやすい主な組み合わせ:

花粉グループ交差しやすい花粉飛散時期
スギ ↔ ヒノキヒノキ科同士2〜5月
カモガヤ ↔ オオアワガエリイネ科同士5〜8月
ブタクサ ↔ ヨモギキク科同士8〜10月
シラカンバ ↔ ハンノキカバノキ科同士3〜6月(主に北海道・東北)

さらに注意したいのが、花粉と果物・野菜の交差反応(口腔アレルギー症候群/PFAS)。シラカンバ花粉に感作されている方がリンゴやモモを食べると口がかゆくなる、ブタクサ感作者がメロンやスイカで違和感を覚える——こうした症状は花粉との交差反応が原因の可能性があります。果物を食べて口に違和感がある場合は、アレルギー専門医への相談をおすすめします。


花粉カレンダー完全版——スギ・ヒノキ・イネ科・ブタクサを月別に把握する

多重感作への対策は、「自分がどの花粉に反応し、それがいつ飛ぶのか」を把握することから始まります。

全国の主要花粉 年間カレンダー(例年の傾向)

花粉1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
スギ------
ヒノキ--------
イネ科-------
ブタクサ---------
ヨモギ---------
シラカンバ---------

◎ピーク ○飛散多い △少量飛散 -ほぼなし

※地域によって飛散時期は大きく異なります。北海道はスギが少なくシラカンバが主役。九州はスギの飛散開始が1月下旬と早い傾向があります。

地域別の注意ポイント

  • 九州・四国: スギの飛散が例年1月下旬〜2月上旬に始まる。全国でもっとも早い対策開始が必要
  • 関東: スギ花粉の飛散量が全国的に多い地域。3月がピーク。都市部ではアスファルトで花粉が再飛散しやすい
  • 近畿: スギとヒノキの飛散時期が重なりやすく、3〜4月に症状が長引きやすい
  • 東北: 飛散開始は遅めだが、5月までスギが飛ぶことがある。イネ科の飛散も6月以降に続く
  • 北海道: スギ花粉はごく少量。代わりにシラカンバ花粉が4〜6月に飛散し、リンゴやサクランボとの交差反応に注意が必要

転勤や引っ越しの際は、引っ越し先の主要花粉と飛散時期を事前に確認しておくと、シーズン初日から慌てずに済みます。環境省の花粉飛散量データや日本気象協会の地域別情報が参考になります。


多重感作かどうかを知る方法——アレルギー検査の種類と選び方

「自分がどの花粉に反応しているかわからない」という方は、アレルギー検査で原因花粉を特定することが対策の第一歩です。

主な検査方法

検査名方法特徴費用目安(3割負担)
特異的IgE検査(血液検査)採血特定のアレルゲンごとにIgE値を測定。個別指定またはセット検査1項目 約1,000円
View39採血39種のアレルゲンを一度に検査。花粉以外(ダニ・食物等)も含む約5,000円
皮膚プリックテスト皮膚に微量のアレルゲン液を接触即時型反応を15分で確認。感度が高い約2,000〜3,000円

多重感作が疑われる場合は、View39のようなパネル検査が効率的。1回の採血で花粉だけでなくダニや食物アレルギーも同時にわかるため、全体像を把握できます。

検査は耳鼻咽喉科やアレルギー科で受けられます。「春だけでなく夏や秋も症状が出る」「年々症状の期間が長くなっている」と感じている方は、一度検査を受けておくと、的を絞った対策がとれるようになるでしょう。


複数花粉に対応する通年対策——シーズン前・ピーク時・シーズン後の3段階

多重感作の方は、特定の時期だけでなく年間を通じた対策スケジュールが重要になります。

シーズン前(飛散開始2週間前〜)

  • 初期療法を始める: 症状が出る前から抗ヒスタミン薬を服用すると、シーズン中の症状が軽減されるとされています。複数の花粉に反応する場合は、最初の花粉(多くの地域ではスギ)の飛散開始2週間前から開始を検討
  • 自分の花粉カレンダーを作る: 検査結果をもとに、自分が反応する花粉の飛散時期をカレンダーに書き出す。「いつからいつまで対策が必要か」が一目でわかるようになる
  • 生活環境の準備: 空気清浄機のフィルター交換、防花粉スプレーの準備、室内干しへの切り替え計画

ピーク時

  • 花粉情報を毎朝確認: 環境省「はなこさん」や天気予報アプリの花粉飛散情報をチェック。「非常に多い」の日は外出を最小限に
  • 外出時の防御: マスク(BFE99%以上)、花粉対策メガネ、髪をまとめる、表面がつるつるした素材の上着を選ぶ
  • 帰宅後のルーティン: 玄関で上着を払う→洗顔・うがい→着替え。この順番を習慣化する
  • 症状が重い日は受診を: 市販薬で抑えきれない場合は、耳鼻咽喉科で点鼻ステロイド薬や点眼薬の処方を相談できる

シーズンの合間(花粉の切り替わり期)

多重感作ならではの注意点。スギが終わってヒノキへ、ヒノキが終わってイネ科へ——花粉の切り替わり期に薬を中断してしまうと、次の花粉で症状がぶり返します。

  • 服薬を自己判断で止めない: 次の花粉の飛散開始と重なる場合は、主治医と相談のうえ服薬を継続
  • 症状日記をつける: どの時期にどの症状が強いかを記録すると、翌年の対策精度が上がる

多重感作者の治療戦略——舌下免疫療法と薬物療法の組み合わせ

根本的な体質改善を目指す場合、舌下免疫療法が選択肢に入ります。ただし、現在日本で保険適用されている舌下免疫療法はスギ花粉とダニの2種類のみ。ヒノキやイネ科の花粉に対する舌下免疫療法は未承認です。

そのため、多重感作者の治療は以下のような組み合わせが現実的とされています。

  • スギ花粉: 舌下免疫療法(3〜5年の継続が必要)で根本対策を目指す
  • ヒノキ花粉: スギの舌下免疫療法が奏効すると、交差反応によりヒノキ症状も軽減する場合がある
  • イネ科・ブタクサ等: 抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイド薬などの薬物療法で対症的にコントロール

舌下免疫療法はスギ花粉の飛散していない6〜12月に開始するのが一般的です。治療期間は3〜5年と長期にわたりますが、約7〜8割の方に症状の改善が見られるという報告があります(日本アレルギー学会)。

「複数の花粉に反応しているが、どこから手をつければよいかわからない」という場合は、まずアレルギー専門医に相談し、もっとも症状が重い花粉から優先的に対策を立てていくのがよいでしょう。


今日からできる1つのこと

自分が反応している花粉を特定すること——これが多重感作対策の出発点です。

「春以外にも症状が出る」「毎年、花粉症の期間が長くなっている」と感じている方は、耳鼻咽喉科でView39などのアレルギー検査を受けてみてください。原因がわかれば、年間スケジュールに沿った先手の対策が可能になります。

検査を受ける前でも、症状が出た日と天気・花粉情報を記録しておくだけで、受診時に医師が原因花粉を絞り込みやすくなります。スマートフォンのメモやカレンダーに「くしゃみ・鼻水がひどかった日」を書き残すことから始めてみてはいかがでしょうか。


まとめ

  • 多重感作は珍しくない: 花粉症患者の約半数が複数の花粉に反応している。「スギの時期が終わっても症状が続く」なら多重感作の可能性がある
  • 検査で原因を特定する: View39などのパネル検査で、反応している花粉を一度に把握できる
  • 年間スケジュールで先手を打つ: 花粉カレンダーと自分の感作パターンを照らし合わせ、シーズン前から対策を始めることで症状を大幅に抑えられる

複数の花粉への対策に関連して、個々の花粉の特徴や薬の選び方について詳しく知りたい方は、[スギ・ヒノキ花粉症の症状と治療法まとめ]や[花粉症薬の眠気を防ぐ選び方]の記事もご参考にどうぞ。


参考文献:

  1. 環境省「花粉症環境保健マニュアル」
  2. 日本アレルギー学会「アレルギー性鼻炎ガイド」
  3. 厚生労働省「アレルギー疾患対策」
  4. 日本耳鼻咽喉科学会「花粉症の疫学と治療」

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の症状・治療については必ず医師・薬剤師にご相談ください。